第一章 春 ─『わたし』と“僕“とコイツ─

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それでも、僕はなるべく普通でいられるように努力した。 父が出て行った後の母の背中を見ていたら、そうするしかないように思えたし、何より、自分も楽になりたかった。 だから高校は、星海高校を選んだ。 この高校は、数年前まで男子校だった。 まだ共学化されて年数が浅いから、女子の数が圧倒的に少ないと噂で聞いたから、迷わずここを選んだ。 男で居たい僕にとって、女子特有の派閥や、異なるものを徹底的に排除しようとするドス黒い団結力も窮屈だったし、何よりも、叶いもしない性の対象が、望みもしないのに近くにいることが、とてつもなく苦しかった。 それに、星海高校はカトリックの学校だ。 別に僕はカトリックでもなんでもないのだけど、どうせ、恋をすることも、セックスをするなんてことも一生ありえない僕にとっては、校舎を見下ろしている聖マリア像が唯一の救いに見えたし、教会のような造りの校舎の白い壁も、青空のように清々しい空色の三角屋根も、止む無く一生清純なままであろう僕に相応しく思えた。 だから、この学校を選んだのだけど・・・。 いざ入学してみると、残念ながらクラスの半数は見事に女子で埋まっていた。 結局、中学の時と何も変わらない。 僕に攻撃的な目を向ける、セックスの対象に囲まれる息苦しい毎日に何ら変わりはなかった。 それでも、僕はただ毎日をやり過ごしてきた。 波風立てないように、出来るだけ目立たないように、群れるのが嫌いな、男っぽい女の『わたし』として・・・。
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