第二章 夏 ─ 最後の夏 ─

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「・・・じいちゃ・・・何で・・・」 箱の中身を見て、“僕”は思わず顔を覆った。 間違いない。“僕”は一番の理解者を失ったんだ。 「・・・・・・」 緒方さんは、何も言わずに、泣き崩れた“僕”の背中を撫でてくれた。 高校に入る前、“僕”がどうしても欲しかったもの。 “僕”が、星海高校を選んだ、もう一つの理由。 だけど、手にするための代償はあまりに大きく、諦めたものが、その中に入っていた。 『それ』の上に、一筆箋が添えられている。 『黒のランドセルば()うてやれんで、すまんやったな』 箱の中身に、そのただ一言に、全てが込められていた。 じいちゃんは、きっと、全部わかっていたんだ・・・。 そう思うと、もう、溢れる感情を抑えることもできなくて、”僕“は幼子のように声を上げて泣いた。 「じいちゃんっ!・・・じいちゃんっ・・・」 もう居ないのだけど、じいちゃんに縋り付きたい思いで、箱の中身を強く抱き締めた。 真っ黒な生地に、とても珍しい七つの金色のボタン。 それがとても格好良くて、出来ることなら袖を通してみたいと夢見ていた。 「ありがとう・・・ほんと・・・に。・・・大事にするから・・・。・・・じいちゃん・・・何で・・・死んじゃったんだよぉ・・・」 “僕”が強く憧れた、星海高校の学ランは、高校最後の夏に突然逝ってしまったじいちゃんからの、最後のプレゼントになった。
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