第三章 秋 ─僕らの距離─

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進学か、就職の希望すら書いていないということが、どれだけ危うい状況かは、もちろん自分でも分かっている。 高三の秋。もう十月ともなれば、推薦入試試験のために、ちらほらと空席も目立つようになってきたくらいだ。 「まぁな。でも、お前の場合、勉強だけは真面目にしよっけん、ぶっちゃけた話、試験はどがんかなると思う。・・・だけん、とにかく就職か進学かくらいは決めんと・・・」 先生は、ため息をこぼしながら眉根を寄せて『わたし』の顔を見つめてきた。 「・・・経済的な問題か・・・?」 とても、言いづらそうに繰り出された質問に、『わたし』は少しだけ左下に視線を逸らして、小さく頷いた。 「・・・そうか」 先生は、とても重々しい雰囲気で頷いたあと、それが予想通りだったとでも言うように、準備してきたカードを切り出した。 「そういうことかと思って、持ってきた。考えてみとってくれ。三年間頑張って勉強してきたっちゃけん、審査は通るやろう」 先生が机の上に並べたのは、複数の奨学金制度の資料だった。 「・・・ありがとう・・・ございます」 「うん。とりあえず、また来週にでも聞かせてもらうけん、それまでじっくり考えてみろ」 「あ、はい」 歯切れの悪い『わたし』の返事に、少し困ったように笑いながら、先生が立ち上がった。 「じゃ、帰り気をつけろよ」     
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