138人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
大島は、この日から、ことあるごとに『わたし』の世界を邪魔してきた。
まだ教科書も何も揃っていない彼のことを思えば、授業中に教科書を見せてやるのは仕方の無いことだとしても、『わたし』ですら気付いていなかった机の上の落書きのことに触れるのは、やめて欲しかった。
「これ・・・内田さんが書いたの?」
六時限目の終了間近に、あろう事か大島は、『わたし』の席に腕を伸ばして、落書きについて問うてきた。
『来世は男に生まれますように』
それを指し示しているシャープペンの先よりも鋭く尖ったその落書きは、『わたし』の胸に突き刺さった。
「違う」
『わたし』が書いたものじゃない。
気付くといつもこんな落書きが増えている。
それに気付くのは、休み時間が明けて席についた時や、翌朝の登校時、まぁ、『わたし』が席を外した時に色々だ。
犯人は目星がついているけど、別にどうでもいい。
相手にする気もない。
「・・・そっか」
大島はそれだけ呟いて、また視線を黒板に戻した。
熱心にノートに色分けして『ペリーが開国を迫った理由はなに?』と、質問したい項目を書くくらい日本史が好きなら、初めから黙って黒板だけを観ていればいいのにと、心底コイツに嫌気がさした。
その様子をみて、クスクスと嫌な笑い声が右耳に触れてきた。
大島の斜め前の席、多分落書きの主犯、川島頼子だ。
それに合わせて、彼女の取り巻きの金山美幸と、太原桃香も笑った。
女はどうして一人じゃ虐めも出来ないんだろう。
別に、こういうのは痛くもなんともない。
一人で何も出来ないうちは、彼女たちに負ける気もしない。
だけど、この目の前の落書きは、『わたし』を苦しめた。
これは“僕”がずっと願い続けているものなのだから。
最初のコメントを投稿しよう!