第三章 秋 ─僕らの距離─

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第三章 秋 ─僕らの距離─

夏の終わりから、“僕”は、暇さえあれば空を見上げるようになった。 今も例外なく、放課後の教室で、徐々に高くなり始めた空をぼんやりと眺めていた。 どこからか、太鼓や笛の音が聞こえる。 もうすぐ、くんちだ。 どこかの踊り町の人達が、練習をしているに違いない。 この音を聞けば、血が騒ぐとじいちゃんが言っていた。 “僕”も同じだ。 おくんちの、あの独特な祭囃子は、聞けば昔から“僕”の気持ちを高揚させた。 「おう、待たせたな」 背後から聞こえた声の方へ振り返ると、いつもと同じ赤ジャージ姿の岡部先生が、プリントを片手に教室へ入ってきた。 「いいえ、そんなには待ってないですけど・・・」 先生の手元のプリントを見ると、途端に気分が沈んでいく。 『ちょっと今日の放課後残ってくれ。話のあるけん』 そう先生に言われた三限目の休み時間から、ずっと気分が重かった。 「いくらなんでも、白紙はなかろうが」 机の上に先生が差し出したのは、氏名だけしか書けずに提出した、進路希望調査票だった。 見出しの横に、《最終確認》と添えられているのが、更に気分を重くする。 「・・・ヤバいですよね」     
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