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「ソル・フェリア君、君のおかげでこのとおり積み荷も無事で、万々歳だよ」
あははは、と笑いながら依頼人が言った。
「……それはどうも」
馬車の荷台に積まれた、荷物の中身が気になるが、聞かないぞ。どうせヤバいもんだろう。非合法品なんだろう。狙われすぎなんだよ、山賊に。
「どうだね、良かったらうちの専属の護衛にならないかね」
依頼人が笑いながら言う。その太った腹を見ながら、
「折角ですが、それはちょっと」
「ああ、あの綺麗な少女のことなら、それも込みで面倒見ても」
「あ、いえ、旅の途中なんで」
曖昧に笑う。目的地もない旅だがな。
じゃあまた近くに居た時は、なんていう依頼人に、曖昧に笑い返しながらリリスの待つ街へと戻る。
定職があるのはいいことだが、ああいうヤバそうな仕事を定職にする気はない。今回は金がなかったから特別だ。俺一人ならいいけれども、リリスに何かあったら困る。大体、綺麗な少女ってなんだよ。それは否定しないが、あのタイミングで綺麗とか付け加える必要ないだろう。変なこと考えていたんじゃないだろうな、あのオヤジ。
荷物もない、一人での状態だと行きよりもだいぶ早くもとの街へ戻って来られた。すっかり日は暮れてしまったが。
とっている宿へと戻ると、
「ああ、ちょっと、フェリアさん」
おかみさんに呼び止められた。
「はい? あ、リリスがなにかしましたか?」
一人で泊まらせるから多めにお金も払ったし、リリスには食事も宿の食堂でとるように言い含めてあった。一人で出歩かないように、という忠告もちゃんと守っているし、今までトラブルが起きたことはないが。
「なにかしましたか、じゃないわよ。あんな小さな子を一人で泊めて、三日も留守にして! あなた、あの子のお兄さんなんでしょう? ちゃんと面倒見てあげなくちゃ!」
恰幅のいいおかみさんに睨まれては、
「……すみません」
頭を下げるしかない。
「大体ね、あの子がどんな寂しい思いをね」
寂しい思いをさせていると思うのならば、はやく部屋に戻して欲しい。そう思いながら、おかみさんの説教を聞き流す。
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