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「ずいぶん愛想が良くなったじゃないか。客商売のおかげか?」
思わず感心する。褒められたのが意外だったのか、倫太郎の眉がひょいと上がり、口元が緩む。
「松岡さんも変わったみたいですね。刑務所にでも入ってました?」
嬉し気な顔で嫌味を言うひねくれ具合に、声を上げて笑う。翔だけが、一人でうろたえている。
「倫、失礼なこと言うな!」
倫太郎を叱る翔を、松岡は手を上げて遮る。
「惜しいな。しばらく入院してたんだよ。おかげで、酒も女も、ぜーんぶご無沙汰だ。仕事は他の奴に譲って引退したしな。退院したはいいが、通帳もマンションも組に取り上げられちまって金もねぇ。ここまでもローカル線で十時間かけて来たんだ。タクシーも新幹線も今の俺には贅沢品。笑えるだろ?」
言いながら、また笑う。薬のおかげか、それとも憐れみとはほど遠い倫太郎の嫌味のおかげか分からないが、気分はそれほど落ち込んでいない。
「昔よりとっつきやすいかも」
倫太郎はつまらない冗談を聞いたかのような冷淡さで、あっさりと流すと、家の中へ入るよう促した。
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