夜1

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 軽く笑い、返されたスマホに視線を落とす。久しぶりに電源を入れたにも関わらず、メールも不在着信の履歴もなにも表示されない。誰にも必要とされないことを寂しく感じたこともあったが、入院中の写真を消されたいまは、このスマホ自体捨てて構わない気がしてくる。  『友達』には申し訳ないが、写真が実際に消されても、悲しい気分にはならなかった。それが、自分の病気が快方へ向かっている証なのか、それとも悪化の徴なのかも分からない。  わずかな寂しさは確かに感じるが、ただそれだけだ。  安堵と落胆が渦巻き、胸をざわめかせる。大きく息を吐いてなだめると、再び電源を切り、棚へ戻した。  もう一杯と勧める倫太郎を断り、食後の薬を飲んだ。風呂に入ってから、今度は就寝前の薬を飲む。睡眠薬だ。一時間ほどで効果が出るだろう。  明日は休みの二人はまだ晩酌を楽しんでいた。 「俺に気を遣わず、ゆっくりしてろ」  すっかりなじんだソファへ身を横たえようとすると、倫太郎に呼び止められる。 「松岡さん、今日ぐらいはベッド使って下さい。俺たちまだ寝ないし、ロフトの方がゆっくりできますよ」  自分がすぐそばで寝ていては、夜更かししたい二人の邪魔かもしれないと思う。  んー、と唸りながら、従うことにする。ロフトの階段を上ると、心配した倫太郎が後ろをついて来た。 「シーツ交換してありますから」 「おう」     
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