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倫太郎は椅子の上で足を折りたたみ、背もたれに身体を預けた姿勢で、自分だけコーヒーを飲んでいる。外から帰って来た翔の代わりに動く気はないらしい。しかし、口だけなら動かす気があるようで、世間話を向けられた。
「松岡さん、入院って長かったんですか?」
「あぁ、一ヵ月。長すぎて、隣りのベッドの奴と無駄に仲良くなっちまった」
横になったまま答えると、興味を引いたのか、倫太郎が身を乗り出す。
「松岡さんが友達? 入院したのって、精神科?」
ずけずけと言われたが、可愛くないと思っただけで腹は立たなかった。
「おう」
「マジで当たった!」
翔が倫太郎の失言に焦った顔をする一方で、冗談のつもりが的を得てしまった当人は、単純に正解を喜んでいる。
「翔、コーヒーはいいや。なんでもいいから酒くれ。飲んだら寝るから」
「はい」
簡潔な返事と、低い声音が懐かしい。
翔が出したグラスを断り、缶のままビールを一気に飲み干す。一ヵ月ぶりの酒が、内臓に染みわたるのを感じる。
深く息を吐くと、黙って二本目が差し出されたが断った。
以前なら、この程度のアルコールはジュースみたいなものだったが、今は病み上がりだ。酔うほど飲んで、薬を飲み忘れるのが嫌だった。
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