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うたた寝であろうと誰かがいる部屋で眠るなんて、ふりだけであろうと昔なら出来なかった。今では大部屋の病室に比べれば、誰と一緒であろうとどこでも快適に思える。
最小限の備えしかない部屋は思ったより居心地が好い。
薪の香りと、燃える木の爆ぜる音も悪くない。自分の変わった姿に、二人ともあれこれ言う気はないらしく、自然な沈黙が漂う。
時折カップがテーブルに置かれる音がする、柔らかな木を打つ低い音だ。誰かがそばに居てくれる。
ここは、温かい。
頬に当たる空気がすうっと冷えた拍子に目が覚めた。部屋は薄い藍色に染められ、夕方なのか夜明け前なのか、一瞬分からなくなる。
電気とは違う熱が、冷えた身体の芯を温めたようで、身体が軽く感じられた。
冷たい空気を連れてきた主は、雪の欠片をそこらにまき散らしながら、松岡と薪ストーブの間に片膝をついた。外から運び入れたばかりの薪を床に下ろす。
松岡の視線に気づいた翔が、ホッとしたように笑みを浮かべる。雪焼けした顔の目じりに皺が寄った。
「おはようございます。昨日はよく寝てらっしゃいましたね。腹減りませんか?」
横になったまま、伸びをする。松岡のしゃがれた唸り声が返事代わりになった。
部屋に明かりが点く。時計は六時を指していた。
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