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五年前まで、翔は松岡のボディーガードをしていた。色々あった末に、幼馴染みの倫太郎(りんたろう)のために組を抜けた翔は、その男と一緒に地方の温泉宿で住み込みの仕事をしながら暮らすようになった。
温泉で羽を伸ばしがてら、様子を見に行ったこともあったが、あまり昔の縁を引きずるのも良くないと、ここ三年はなんの連絡も取っていなかった。
左右に振れる度にウンウン唸るワイパーから目を逸らす。夏は鮮やかな山の緑と単調な田んぼが続く風景だったが、いまは何もかもが雪に塗り潰されている。吹雪だというのに、弱い日の光を反射した雪原は自ら発光しているかのようにその白さを主張し、眺めただけで目が疼いた。
正面を見れば、白一色に塗りつぶされた道路は、中央線さえ見えない。左右に積もった雪が道幅を狭め、大型ダンプとすれ違うとヒヤリとした。
松岡は瞬きを繰り返し、車内へ視線を戻す。
翔は生真面目な顔で、圧雪された道をそろそろと運転している。
この男とツレの倫太郎とで3人でセックスを楽しんだこともあったのを思い出す。あの太い首筋にむしゃぶりつく代わりに、二人で倫太郎の身体に押し入った。その夜、倫太郎は松岡の気持ちを知った上で、自分を介し、松岡を翔へ触れさせた。
自分の人生をグラフにするなら、仕事も私生活もあの頃が一番充実していた。それらはもう過去だ。
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