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鉱石話が終わりそうにも無いので他のメンバーは隣のナイフのコーナーへと移った。
「流石に、ナイフの刀身や研磨は、職人に私のデザインを依頼してそれに柄やカバーを付けている。デザインは、ナイフ職人の意見を取り入れているから、宝飾品としてのナイフよりも実用的だ。まぁ、実用するかは別だけれども」
職人の言う通り、宝飾品の様なナイフがずらりと並ぶ。刀身に名前の刻んであるものは、有名な鍛治屋の品らしい。柄の部分も、牛革であったり、藍染めのワニ革であったり、ベリルの散りばめられたもの、ナイフケースに納めた時、木の枝にしか見えないもの、それの竹バージョン等……。
このコーナーでは、今度はギルドマスターの目が輝いた。
「これは、ユニコーンの角だね?」
職人は、ニヤリと笑いそれをケースから取り出してマスターに手渡した。五十センチ程の、螺旋状に渦を巻いていて先の尖ったその角は、明らかに鹿や牛のものとは違った。そして、骨の様に真っ白だった。マスターはゆっくりと刀身を抜いた。角の中から現れた刀身には、まだらな、蛾の羽の様なダマスカス紋様がくっきりと見える。さらにこのダマスカス紋様には、所々、赤や黄の色が付いているのだった。
「有色ダマスカスだ。サージタ・ケッシーのナイフだな」
「その通り! 宝刀と呼ばれる希少なものだよ。これは、鋼そのものが他とは違う。強度、柔軟性が絶妙だから、他に無い切れ味を出すんだ。彼に依頼するのも、だいぶ苦労したが。その甲斐あって、このユニコーンの角の良さも最大限引き出す事が出来たと自負しているよ」
「確かに。この、牛とも鹿とも違う独特の掴み心地。重み。これはナイフに適した素材だ」
また長話が始まった。クリスは結構、飽きて来た。職人は、良く喋るのだが、自分の技術の事は殆ど話さない。素材の良さを、それぞれの客の趣味に合う話題で返しているといった感じだ。が、クリスの目的のドラゴン素材や、コンクール入選の品物が全く出て来ない。
クリスは、ちょっと勇気を出してみる事にした。
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