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「ウィーの文化の、一時期途絶えたのも彼等が作れなかった、トレードビーズとしてペチットに入って来なくなったのが原因ではないかと私は考えている」
ビーズと人間をトレードする。そんな事を平気で言う職人。そのトレードされたかも知れないビーズを神秘的と言い放つその感性がクリスには理解出来なかった。
「そしてこのウィーの周りにも、アンティークペチッタンターコイズを埋め込んでいる。土台の銀は、純度の低い、銅の多く混ざった銀でペチット銀と呼ばれているものだ。用途としては、ペチットのアクセサリーや法具としてしか見られない。普通は、純度の高い銀を使うからね。私はこの指輪を、ペチットの風と名付けたよ」
脇からマスターが、五十年程度でヴィンテージ、百年以上でアンティーク、起源前後の辺りになるとエンシェントと呼ばれると教えてくれた。鉱石好きのカイルは、ウィービーズには興味を示さなかったが、ペチッタンターコイズには食らい付いた。カイルは天然石が好きであって、染め等の加工には興味が無かったのだ。
「ウィーは時代と共に、ペチットのムッ教と合流していく。今でこそ法具として認識されたりもするが、ムッ教の伝来より遥かにウィーの方が早い。さらに、メノウ、カルセドニーではなくカーネリアンにウィーの様な紋様を描いたビーズが他の国でも発掘されている。これは、メノウよりカーネリアンの方が需要が……」
発掘というキーワードで、ハンター達もどんどん話が盛り上がる。クリスはその話から抜け出して一人で皆の話の終わるのを待ちながらあちこち歩き回ったりしていた。
大人達の話も終わり、買い物も済ませた一行が帰る頃には、もう日も暮れ始めていた。結局、ドラゴン素材の作品はここには無かった。
「で、どれが入選作品なの?」
クリスの質問に、職人はニヤリと笑みを浮かべた。
「それで良いんだ。私は元より、審査員の目で物作りをしているつもりは無い。しかし、君はしっかりと見ていたよ。入選作品を。これも、いきもののサガか……」
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