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生ける屍
長いこと葬祭センターで働いているため、普通の人より圧倒的に『ご遺体』を見る機会が多い。
そのこと自体は嫌でも何でもないのだけれど、多分そのせいで、私には特殊な力が見についてしまった。
普通に行動している人達が、本当に生きているのか死んでいるのか判別できる。
人に話せば、確実におかしなことを言っていると思われることだろう。でも、どんなに生者を装っても、肌や瞳の色の微かな違い、体臭などで、確実に生者と死者の違いは判るのだ。
でも、見抜いたからといって、あえて何かを指摘することはない。
そんなことを口にしたら周りにおかしいと思われるだけだし、指摘された当人が口封じのために何かしてこないとも限らないからだ。
生者と死者の判別ができる。ただそれだけ。誰にもこのことを言うつもりはない。
その気構えが、まさかこんなふうに役に立つなんて。
その事件が起きたのは数日前だった。
帰宅途中、暴走車に衝突されて私は意識を失った。
それからどれくらい経ったのか判らないけれど、私は目を覚ますことができた。
意識にはっきり焼きついている暴走車や運転手の特徴を口にして、手がかりを得た警察の手で犯人は捕まった。
そこまでならハッピーエンド。でも私はすぐに自分の変化に気づいた。
鏡に映る自分は、これまで出会った死者と同じ顔色をしていたのだ。
どうやら、事故で私は死んだらしい。でも何が理由かは判らないけれど、こうして死人になっても動いている。周りもそれに気がつかない。
私は生前から見抜く力を持っていたので気づいたけれど、案外と、これまで遭遇した『本当は死んでいる』人達も、隠しているとかではなく、自分が死んでいることに気づいてないだけかもしれない。
それなら生きてる時同様に暮らしていても不思議じゃないかな。
とりあえず、何をどうすれば自分が活動しなくなるのか。その方法は判らないので、私もこれまで出会った死者達のように、この先もこれまで通りの暮らしをしようと思う。
でも一つだけ疑問。もう死んでるということは、私の時間は止まったということ。きっとこの先老いたりはしない。
その、いつまで経っても変わらない事実を周りが不審に思い出したら…さてその先はどうすればいいのか。それだけが気がかりだ。
生きる屍…完
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