第16章 わたしの神野くん

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「駄目だよ、そんなの風邪引く。ちゃんと歩けるよ。…僕は元いた床に戻った方がいいんじゃないかな。ベッドじゃなくて」 「いいんだよ、朝までベッドで。二人で寝ててもみんな何も言わないよ、それは」 「本当にわけわかんない、摩訶不思議な人たちだよなぁ…」 わたしにそっと支えられて立ち上がり、今ひとつ理解しかねるとばかりにぶつぶつ呟く神野くん。 それはそうだけど。彼に手助けされながら服を身につけ、一緒に足音を忍ばせて部屋に戻りながら内心で考える。あなただって大概だと思うけど。成り行きとはいえ自分の意志でもなくこんなことに巻き込まれて。どうしてこんな場所からさっさと逃げ出そうと思わないんだろ? 浴室を出るなりそっと距離を置かれた気がしてちょっと肩を竦める。さっきまで恋人みたいに親密に思えたのに。終わったらこれだもん。わたしのこと好きとは到底思えない。欲情は感じてくれてるにしろ。 実際、一体何考えてここでこうしているんだろう。ベッドに並んで入っても抱き寄せもせず注意深く間隔を空けて向こうを向く神野くんに戸惑うばかりのわたし。小さくため息をついて掛け布団に顔を埋めた。 何かが掴めたと一瞬思ったのに、またよくわからなくなる。まだしばらく、彼の態度のあれこれについて判断に迷う日々が続きそう…。
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