一輪のカーネーション

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僕はおじいさんから、そのカーネーションを受け取ってお代を払い家路に急いだ。 母さんに感謝をしたことはあったろうか。 感謝を言葉にしたことはあったろうか。 父さんが事故を起こす前は『ありがとう』を言えていたはずだ。 いつから言えなくなったのだろう。 そんなことを考えながら歩いていると家に着く。 玄関前で深呼吸をして中に入る。 母さんは台所にいた。 「母さん!」 母さんは、僕に振り向く。 「母さん!いつ……も……あ……りが……とう」 途切れ途切れに声が小さくなる。 差し出したカーネーションを母さんは笑って受け止めた。 「お前の『ありがとう』なんて何年ぶりかな?ありがとうね」
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