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こんな風に慌てた幸隆は珍しい。余程、イルを心配しているようだ。
「あー、寒かったー。幸隆、ココア飲みたい。買って」
「分かってるよ。コンビニ寄ってくつもりだった」
「わーい」
イルはどさくさに紛れて幸隆の腕をギュッと抱き締めた。なんだか、そうしたい気分になったのだ。
「なんだ? 珍しい」
「だって、寒いからさー」
そう言ってはぐらかすイル。
本当はこんな事するのも恥ずかしく、内心ではドキドキしている。でも、周りに人がいないのを確認したから大丈夫。それに、長くしがみ付くつもりは全くない。
「さー、早く行こう。あっつーいココア早く飲みた……ンッ!?」
でも、幸隆の腕から離れた瞬間。唇が一瞬だけ温かい物に触れた。
「なっ!」
「少しは熱くなったろ?」
「ばっ、馬鹿じゃないのっ!? きっ、キスなんて……」
「良いだろ。今日のご褒美」
「ご、ご褒美って……」
「ほら、行くぞ」
幸隆はそう言ってイルの前をゆっくりと歩き出す。そんな幸隆の背に、イルは赤面した顔をマフラーで隠しながらトコトコと横に並んだ。
「……ピザまん追加」
そして、そうぼそっと呟く。
「はいはい」
「あと、あと……」
「あとはコンビニに付いてから決めれば良いだろ」
「なら、いっぱい買ってもーらお」
イルはそう言うとニコッと笑い、手を繋ぎたい気持ちをぐっと我慢しながら、幸隆と共にコンビニへと向かったのだった。
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