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もしここで〝そうだ〟と言ったら、ルイは絶対に付いて来る。そう思ったからだ。
そんな事になったら幸隆はイルの返事を勘違いしてしまい、全てが壊れてしまう。
それだけは避けたかった。
「……まぁ、いいわ。私もクリスマスは大樹と予定入れたし」
「そ、そうなんだ……」
その言葉に、あからさまにホッとしてしまったイル。ルイに予定があれば、出る時間をずらせばバレる心配はないと思ったからだ。
「うん。じゃ、私また出掛けるからお留守番よろしくー」
「行ってらっしゃい……」
パタン---玄関のドアが閉じた音。その音を聞き、イルはその場で崩れた。
両手には手汗が滲み、今の数分で自分がどれだけ緊張していたのかを感じる。
「邪魔されないようにしなきゃ……」
幸隆に自分の気持ちを伝えるまでは安心しきっては駄目。幸隆の自分への想いも、全てそうだ。
イルはその日からクリスマスまで慎重に過ごした。慎重過ぎて胃が痛くなるくらい慎重だった。
そして、その日がようやく来てくれて、イルは寝る事なく、あの白いワンピースを見詰めた。
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