第8章 白いワンピース

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 こんなにも緊張した日を迎える事があるとは……去年の自分は考えてもいなかっただろう。  いつも通り幸隆と巨大なツリーを見に行って、イルの好きな洋服屋に付き合わせて、映画見て、ご飯を食べて、そうなると思っていただろう。  でも、今年は違う。  大切な幼馴染から恋人へとなる大切な、大切な大切な日になるのだ。  いや、なって欲しい。 「はぁー、尊い……」  イルは緊張を解す為、大好きなBL本を読んで心を落ち着かせていた。  前までの自分は、BL本を読んで現実逃避と言う名の妄想に浸り、主人公と自分を重ねていた。  こんな風に幸隆となれたら良いな……そんな願望が漫画の中で描かれていて、辛くなったり、嬉しくなったり、男同士だからこその葛藤を漫画の主人公と自分を重ねて読んでいたのだ。  でも、現実は漫画のようにハッピーエンドになるわけはない。そう諦め続けていた前までの自分。  相手(幸隆)の気持ちが分かっているからこそ、その人の事を強く想うあまり、自分の気持ちを押し殺す事を選択し続けていた。  けれど、もうそんなの考えてなどいられない。それくらい、幸隆の事を愛してる。  それが、ようやくイルの心の中に答えを出した。  悩むよりも、幸隆と共に生きる人生を選びたい。  悩むのなんて、無くなる日は一生ないのだから。 「そろそろ支度しようかな……」  漫画を読んでいたお陰でそわそわしていた気持ちが落ち着いて来た。
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