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あの言葉が無ければルイは個性を奪われ、野球なんかせず、好きじゃないお絵描きやおままごとをして母親の理想的な娘になっていたとルイは言う。
「私は自分が好き。ありのままのこの自分が。だから、幸隆の事も大好きなのッ」
「ルイ……」
「渡したくない。誰にも……特にあんたには絶対に……」
その言葉を最後に、ルイの声が聞こえなくなった。
「ルイ……? ルイ? ねぇ、ルイ?」
イルはドアにピタッと耳を付け、人の気配を探した。でも、何も音は無い。
けれど、イルの部屋からガタッと音がして、ルイがイルの部屋に入っている事だけは分かった。
「ルイ? お願い! 開けてッ!」
イルは隣の部屋に聞こえるように、そう大きな声でルイを呼んだ。そして、数分後。ルイがドアの前に立ち、ドアの向こうでイルに言う。
「この白いワンピース……」
「る、ルイ?」
「私には少し小さいみたい」
「!」
「えっと……巨大ツリーってあそこだよね」
「ルイッ!?」
「メール見ちゃった」
「!」
「あっ、そのうち大輝が来るから慰めて貰いなね。私は幸隆とそのままホテルに行くつもりだから」
「そ……んな……」
「じゃ、行ってきまーす」
「ルイ!? お願いッ! 今日は…今日だけはッ……」
今日だけは---絶対に何があっても行かなければならないの。そう言ったのに、それは無残にも叶う事を許しては貰えなかった。
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