第9章 もう止まれない

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 スマホはルイが持っている。だから、幸隆に連絡する手段は無い。  これは一か八かの賭けだ。  それは、負けの方が見えている賭け。  でも、それでも行かないと……行かないといけない。 「幸隆……っ」  だって、幸隆が待っている。  そう、イルは信じてる。 「ハァ……ハァ…ハァ……」  ようやく見えて来た巨大ツリー。それを見て、初めて見た時の事を思い出す。  大きくてキラキラ輝いて、全てにおいて綺麗で。一緒に見ていた幸隆と「すごい……」そう言って顔を見合わせ笑った。  ツリーを見に行く時はいつも幸隆が一緒で、それが当たり前の事になっていた。  子供だったあの頃に比べてツリーの迫力は減ってマンネリ化し、そこにあるのが当たり前になっていた。けれど、当たり前にある事なんて何一つないと、走りながら強く思った。  幸隆が隣にいる事。笑いかけてくれる事。好きだと言ってくれる事。あと、ツリーを二人で見る事も全て、当たり前の事なんかじゃない。  全てが奇跡なんだ。 「ゆき…ちか……っ」  幸隆。幸隆幸隆……お願い、いて。 「ハァ、ハァハァ……っ」  イルはそう願いながら幸隆を探した。 「いてっ」 「すみませんっ……」  ツリーの周りには人がたくさんいて、時々擦れ違う人と肩がぶつかり、その度何度も謝った。 「幸隆……どこ……っ」  ツリーがライトアップされている事でその光を頼りに幸隆の姿を探す事ができたが、何処を見ても幸隆の姿は見当たらない。  やっぱり、もう……。
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