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幸隆はここにはいない。
ルイと共に何処かへ……。
「イルッ!」
でも、その考えは一瞬で消える。
「ゆき…ちかぁ……」
幸隆がいた。噴水を挟んだ向こうに、イルと同じくらい汗をかいて、鼻を赤くして、心配そうな顔をして、幸隆がそこにいた。
「すみません、通して下さいっ! 連れがそっちにいるんで!」
幸隆は人にぶつかりながら何度も謝り、舌打ちをされ、また謝り、こっちへと必死になって向かって来た。
そんな幸隆の姿に、イルは大粒の涙を流し、幸隆の元へとふらつく足取りで向かう。
「幸隆ッ」
「イルッ」
そして、幸隆の胸へと飛び込んだ。
「ごめっ、ぼく……ッ」
イルは幸隆に抱き付き、泣きながら謝る。そんなイルの身体を幸隆は力強く抱き締め、優しく背中を摩ってくれた。
「ここにルイが来て、お前に何かあったんだってすぐに分かった。でも、ルイは何も言ってくれなくて、手当たり次第探すしかなかった……」
「幸隆……」
「こんな姿で……寒かったな……」
「っ……」
幸隆はそう言ってイルの身体を離すと、着ていたダッフルコートを肩に掛けてくれた。そして、また強く抱き締めてくれた。
そんなイルと幸隆を、擦れ違う人達は驚いた顔で見詰め、コソコソと話し出す。それに気付き、イルは幸隆の身体を離そうと両手でぐっと幸隆の胸板を押した。
「幸隆っ、人が見てるっ……」
こんな人目がある所で男二人が抱き合っていたら目立つ。自分はそんなの気にしないが、これから有名になる幸隆には大きなリスクになる可能性がある。
それだけは駄目だとイルは思った。
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