第9章 もう止まれない

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 なのに、幸隆は力を緩める事はせず、更に強く強くギュッと抱き締め離さない。 「僕、今変な格好してるし、ウィッグ付けてないから女の子に見えな……」  例え、女顔であってもジッと見られたら男だとバレてしまう。それに、男らしい骨格を隠す為に着飾る可愛い服も着ていない今の状況は、とても危険だった。  なのに、幸隆はそんなイルの心配などどうでも良い事だと言い出し、静かに笑う。 「良いよそんなの。気にしない」 「幸隆……」 「お前なら、男でも女でもどうでも良い」 「っ……」 「この腕の中にいるのがイルだったら……俺はそれで良い……」 「ゆき…ちか……っ」  その言葉は魔法のようにイルの不安をかき消す。そして、今までずっとずっとずっと喉まで出ようとしていたあの言葉が、もう自分でも止められない。もう、止まらない。 「好きっ……」 「え……?」  例え、幸隆の将来のリスクになったとしても、それでも、離れるなんて事はできない。  そんなの死んでも嫌だ。 「好きっ……好き好き……ずっと…ずっとずっと前から……っ…ゆきちかが……すき……」  なんでこんな気持ちになったんだろう。友情の好きとは違う特別な好きに。  
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