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本当ならば、女の子の服は女の子が着る物だ。
今だって、本来ならばルイが着るはずだった。でも、代用品としてイルが駆り出される事となり、今に至る。
普通ならば背丈が同じくらいの女の子を起用すれば良かったはずなのに、それを小鳥遊はしなかった。それは何故なのか。イルには分からなかった。
「えー、今時男がとか女がとか関係ないわよ。ね、小鳥遊さん」
「そうねー。ないわね。可愛い子が可愛い服を着る。自分が着たい服を着る。それで良いと思うわ」
そう言ってニコニコと笑う母。
「イルも、昔から女の子が好きな物好きだったでしょ? それはおかしな事じゃないのよ」
そして、イルにそう言った。
「え……? ママ、僕がそういうの好きな事知ってたの?」
「当たり前じゃない。私はあなたのママよ。でも、昔からお爺様が厳しかったでしょ。だから、なかなかイルに言うタイミングが無くて……ごめんね」
「ママ……」
「今日から、あなたはあなたが着たい服を着れば良いの。その為に、モデルの仕事を引き受けたのよ」
「え……? それって……」
「ママがルイに期待するわけないじゃない。絶対に着ない、したくないって言うに決まってるって分かってたわ。ね、小鳥遊さん」
「ええ。私もここに来るのはきっとイルちゃんだと思ってたわ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。だって、ルイちゃんの私服はどう見ても女の子らしい服を好むような物じゃないって見てて分かってたし、そうだろうなって。でも、私的には二人で同じ服着て双子コーデとかさせたいなーって思ってたけど」
「えっ! それはぜひして欲しいわ! あー、ルイ。一回で良いから着ても良いって言ってくれないかしら……」
「……ルイは着ないと思うな」
こんな可愛い服、ルイは絶対に着ない。
強引に渡してもくしゃくしゃにして返してくるだろう。でも……。
「僕は……着たいな……」
ふわふわのフリルの服。ヒラヒラのスカート。そんな可愛いに包まれたい。
それは決しておかしな事ではないのだから。
「! イル、ほんと良い子! 小鳥遊さん、次、次のあります!?」
「もっちろん! たーくさんあるわよ!」
そう言って小鳥遊は右手の指でパチンッと音を出し、アシスタントを呼んで大きな段ボール箱を持って来させた。
まさか、そんなにたくさんあるとは思わなくて、イルは、あははっと笑うしかなかった。
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