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でも、こんなに可愛い服が着れるなら全く苦じゃない。
イルは小鳥遊が手掛けた服を何着も着て、くるくるっと回ったり指示された通りのポーズを取ったりした。それができるほど余裕が持てるようになったのだ。
そして、その後すぐにイルは小鳥遊の手掛ける子供用服のパンフレットの専属モデルをするようになったのだった。
勿論。関係者以外には男である事は伏せながらの活動だ。
「イルちゃん可愛いー! うん、そのまま目線欲しいな。うん! それそれ!」
イルは慣れた格好でポーズを取り、カメラマンの要求に応える。
周りのアシスタントやカメラマン。勿論、小鳥遊も煽て上手なので、イルはいつも撮影の時は自分が男の子である事を忘れてしまうほどノッてしまう。
「これはどうですか?」
「うん! 可愛い! キュート! 最高!」
「ハハッ、カメラさん褒め過ぎ」
「うん! その笑顔貰った!」
イルは撮影が増える度、気弱で自信が無かった性格に変化が現れるようになった。
それは、女の子の服を着るようになって褒められる事が増えたからだ。
皆、イルの事を可愛いと言ってくれる。
前には無い環境の変化に、イルは自分らしさを見出せ始めていたのだった。
「さー、イル。撮影が終わったから次はルイの応援に行くわよ」
「えっ! このまま?」
撮影が終わった直後、突然イルに母が言う。その言葉にイルの動きがピタッと止まる。
「当たり前じゃない! 時間が無いんだから!」
「でも僕、化粧してるし、このまま外は……」
「大丈夫! 可愛い!」
「そ、そう言う事じゃないなくて。ま、ママ!?」
イルの母はイルの言葉など耳を傾けず、撮影で着た服を買い取ってそのままイルをヒョイっと車に乗せた。
「ルイ、今日が初めての試合なのよ。見逃せないでしょ?」
「そ、そうだけど。流石に外では恥ずかしいんだけど……」
「化粧してるし、私から離れて見てたらバレないわよ。私の妹の娘とか言っとけばなんとかなる!」
「えー、絶対にバレるよー」
「バレても大丈夫! 可愛いんだから!」
その〝可愛い〟は一体どこまで通用するのだろうか。イルは母の強引さにはぁーっと溜息をつく。
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