第2章 幼馴染と姉と僕

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 こういう性格はルイの方が血が強いのかもしれない。  強引で周りに有無も言わせないほど必死になれる所。それは、イルにはない。  だからいつも、イルや父が折れる羽目になる。 「さ、球場着いたわ! ママ、周りのお母さん達に挨拶して来るから、あなたは適当に見てて! じゃ!」  母はそう言うとイルを車から降ろし、慌てて走って行ってしまった。 「もー、ママは……」  こんな所に一人で置いて行くなんて。酷い。  でも、いつもの事だ。なんとかなるはず。  そう思いながら、イルは球場の中にトコトコと入って行った。 「どっちに行こうかな。……こっちかな」  そして、ゆっくりと自分が思った道を歩き出し、履き慣れたヒールが球場のコンクリートの床を響かせる。その音に、周りの父兄や他の野球チームの子供がイルを見詰める。 「うわっ、可愛い!」 「どこのチームの妹? 可愛すぎじゃん!」  そして、ユニホームを着た男の子達がイルを見てそう言っているのが聞こえた。  イルはそんな野球少年達にニコッと笑みを贈ってスタスタとその通路を後にした。  ここで話し掛けられても困ってしまう。  話し掛けられる前に通り過ぎるのが一番だとイルは思ったのだ  イルは通路から階段が見えたのでタタッと走り、その階段を上がって建物の中から外に出た。そこは目的地だった観客席で、運良くルイのチーム側の応援側に辿り着いた。  きょろきょろっと辺りを見ると、離れた場所に母がいるのが見えた。  それにホッとし、イルは階段近くのベンチにそっと座った。  ここなら子供の自分でも周りがよく見える。  バッターボックスも丸見えだ。 「あ、幸隆だ」  グランドをふと見ると、ベンチ側から走って自身のポジションに着いた幸隆が見えた。  ユニホーム姿を久しぶりに見たイルは、幸隆のその姿にドキッとしてしまう。
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