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ようやく自分の元に戻って来た……その嬉しさが顔に滲み出てしまい、ハッとなって口元を押さえた。
でも、それを見ていたルイ。静かにあの日の事をイルに話しだした。
「あの日それ着てさ、幸隆の所に行ったじゃん……」
「う、うん……」
「そしたら幸隆、私見てなんて言ったと思う?」
「え……?」
そう言われたイルは小さく「分からない……」とだけ答えた。だって、本当に分からない。幸隆がルイに何て言ったかなんて、考えても出て来ない。それに、今にも泣きそうな目をしたルイの前で言葉など出なかった。
でも、そんなイルに焦れたルイは、スーッと大きく息を吸い、少しだけ早口になった口調でその時の事を勝手に話しだした。
「ないって……」
「え……?」
「似合わないって第一声で言ったの!」
「え? 似合わない?」
まさかの言葉にイルは驚き、無意識に声に出てしまった。あの幸隆が、イル以外にそんな失礼な言葉を言うなんて……信じられない。
「そしてさ、イルをどうしたって……殴りかかって来そうな目で私に近付いて来て言って来たの!」
「あ、あの幸隆が? そんな……」
人を殴った事も、威嚇する事も無い幸隆が、ルイ相手にそんな顔するなんて……そんなの嘘としか思えなかった。
「それがムカついたから、私、絶対に教えないって決めたの。そしたら、私が何も言わないからそれに焦れて走ってあんたを探しに行った……ざまーみろって感じ……ハハッ」
「ルイ……」
一人残されたルイは、擦れ違うカップル達に哀れみの目を向けられながら、その場に一時間はいたと言った。
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