最終章 幸隆だけは、駄目

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 早くここから離れたいと思っているのに両足には力が入らなくて、前に進む気力さえ無くなった。ただ、時間だけが過ぎて行き、ハッとなった時には部屋にいたとルイは言った。  それくらい、ルイは幸隆のその言葉と視線にショックを受けたようだ---あぁ、自分には幸隆の心に入る余地は全く無いのだと……その初めて見る幸隆の怖い表情を見て、ようやく気付いたらしい。 「本気だったのにな……」  ルイはそう言うと、グッと下唇を強く噛んで震える声を止めていた。  そんなルイに、イルは何も声を掛ける事ができず、ただ、黙ってルイを見詰めるしかできなかった。 「あー、もう良いけど。あんな男、もー知らない! 他に良い男が絶対いるもん! 幸隆よりも良い男、探して来てやる!」 「ルイ……」 「だから私……日本を出る事にした」 「え……?」 「ニューヨークに行く。あっちでこれからの事考えようって決めたの」 「ニューヨーク?」 「そう。だから、もうあんたの邪魔はしない」  ルイはそう言うと、目元に涙を浮かべながらニコッと笑った。そして、チラッとイルの手元を見てクスッと笑う。 「それ、幸隆にでしょ?」 「!」 「今日が幸隆の誕生日な事、私が知らないわけないじゃん」 「そ、そうだよね……」  そうなのだ。今日は幸隆の誕生日で、これからイルの部屋で幸隆の誕生日を祝う予定になっていた。
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