最終章 幸隆だけは、駄目

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 それを見て慌てだすイル。  そんな事すっかり忘れていた。 「これ……」 「違うっ、これは大樹が急にっ……って、うわぁ!?」  幸隆はイルが話している途中なのにも関わらず、イルをヒョイっと抱き抱えると、ルイに向かってこう言い放つ。 「アイツに伝えとけ。一箱じゃ詫びにならないってな」 「じゃ、一年分って言っとくわ」 「一生分だ」 「一生分って……アハハッ。幸隆、面白すぎ。分かった伝えとく」  ルイはそう言うと、イルと幸隆に向かって手を振り、ゆっくりと歩き出した。 「ルイ……」  その背はなんだかスッキリしたような、そんな晴れ晴れとした背中に見える。  ルイはようやく長く想い続けて来た呪縛のような物から解放されたのだと、イルには分かった。  それはイルにとったら喜ばしいのかもしれないが、血の繋がりがある人間が失恋した事を喜ぶような事はできず、複雑な心境ではあった。  たぶん、この気持ちはルイが新たな恋をしないと消えないのかもしれない。 「あの男とキスしたんだな……」 「あれは不可抗力だって……」 「でもキスはキスだ……」  幸隆はそう言うと、唇を尖らせ不貞腐れ始める。よほど、イルが他の男とキスをしたのが嫌なようだ。  しかも、写真を見たせいで頭から離れないらしい。 「クソッ。あの男にキスをされてるイルの顔が頭から離れないっ……最悪だ」 「幸隆……」  イルはそんな幸隆を見てどうしようかと考えた。どうしたら幸隆はこの事を忘れる事ができるだろう。そう無い頭で考えた。
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