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イルはニコッと笑って立ち上がり、当たり障りなくその六年生から離れる事に決めた。
でも、それができなかった。
「待ってよ。連絡先教えて」
何故なら、逃げようとした瞬間に強く腕を掴まれたからだ。
「イタッ……」
野球で鍛えられているからか、男の子の握力は強く、細い手首をしたイルの手首はその一瞬でグッと締め付けられる。
それに、〝離さない〟と目で言っていた。
「む、無理です……」
イルはその男の子の行動と視線を受けて更に怖く感じ、声が震えてしまう。
「スマホ持ってるでしょ?」
「も、持ってない……」
小二の自分がまだ持っているわけがない。
イルは本当の事を相手に告げた。
なのに、相手はそれを信じてはくれなくて、突然、イルのスカートに触れて来た。
「嘘だー。俺の学校の奴等なら小一で持ってるぞ」
そう言って、スカートのポケットに手を忍ばせて来るのだった。
「ちょっ、ちょっと、やめてっ」
「あるなら出せよっ」
「ないっ、ないんだって、本当にっ」
イルはスカートを捲られないように必死に抵抗を試みた。でも、相手は我を忘れているようで強引にでもスマホを取り出そうと躍起になっている。
(ど、どうしようっ……)
試合が終わったから周りには人が少なく、こっちを見ている人もいない。
見ていたとしても側から見たら子供がじゃれあっているようにしか見えないのかもしれない。
誰も気に留める人はいなかった。
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