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イルは母の方を見るが、試合が終わって直ぐに選手の元へと行ったのか、もう既にそこにはいなかった。
(助けてっ……)
イルは心の中で助けを呼んだ。
誰でも良い。この状況をどうにかして欲しい。
「おい」
そんな時、聞き覚えのある声がイルのスカートに触れる男の子に向かって掛けられた。
「はぁ? なんだよっ……イッテッ」
そして、男の子の手を力強く掴むと、その痛みに手が離れ、イルはその瞬間に男の子から離れた。
「幸隆ッ!」
イルは助けに来てくれた幸隆の背後にササッと隠れ、幸隆のユニホームをギュッと掴む。
「お前さっき試合出てた奴だろ」
「そうだけど」
「確か二年だよな? 二年のくせに何生意気な事してんだよっ」
「生意気? 人の物に手を出そうとしてるからだろ」
「ゆっ、幸隆!?」
幸隆はそう言うと、イルの冷たくなった手をぎゅっと握り締め、相手を睨んだ。
「コイツは俺のだ」
そして、そうハッキリと相手に告げるのだった。
「だから諦めろ」
「幸隆……」
まさかそんな事を幸隆が言うとは思ってもいなかったイルは、その言葉に心音が激しくなり、冷たかった手が熱くなる。
少し見上げる幸隆の横顔。それが今まで見た中で一番かっこ良く見えるのだ。
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