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「私、そんなフリフリの服嫌ッ!」
小学一年の冬の事。毎年知人を呼んで盛大なクリスマスパーティーを行うイル《いる》の家では、パーティーが始まる午前中はいつもバタバタしていた。今もそうだ。両親は自身の身支度で忙しそうにしている。
そんな両親にイルは一つの紙袋を手渡され、静かにその中を見た。
中には子供用のグレーのタキシードが入っていて、それを袋から出したイルは、そのタキシードを当たり前のように着ようとした。
けれど、隣にいたイルの双子の姉、ルイ《るい》が袋を開けた瞬間にそう大声で叫び出し、手に持っていた服を床に叩き付け始めた。
「なんでこんなの着なきゃいけないの? 私もイルみたいなかっこいいのが良い!」
そう言ってイルの手からタキシードを奪うルイ。
イルはまたかと思い、無言で母を見詰めた。
「なに言ってるの? このドレス、今日来る小鳥遊さんがくれた物なのよ。絶対に着なきゃいけないの。だから、嫌とか言わないで」
母はルイのその言葉に困り果てた顔をしていた。
確かに、ルイが好んで着るような服では無い。ルイはイルとは違いボーイッシュで活発な女の子なので、学校では常にズボンだった。
そんなルイを見て、家族はよくイルとルイの性別が逆なら良かったのになっと呟いているのを耳にした。
それくらい、性格が違かった。
「嫌ッ。そんなの着たら皆に笑われる!」
「笑う人なんていないわよ。あなた、お人形みたいに可愛い顔してるんだから。ね、イル」
「う、うん」
「でも、嫌なものは嫌なのッ! これ、イルが着たら良いじゃん!」
「え……?」
突然のルイのその発言に、場がシーンッと静まり返る。
「イルは女の子みたいに大人しくて、ずっとくまのお人形持ってるんだから、この服はイルが着たら良いよ! はいっ、交換!」
そう言って、ルイは下に捨てたドレスを拾い、イルに無理矢理それを渡して来たのだった。
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