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だから、幸隆はイルには言わない。
イルが幸隆に聞かないから……。
「お前、幸隆いなくてやっていけるのか?」
「え? やっ、やっていけるよ! ゆ、幸隆なんか別に必要ないし、どっかに行っても僕は別に気にしなーい」
そう言って、ハハハッと笑うイル。でも、そんなイルのおでこに邦道はペシッと優しくデコピンをしてきた。
「いた……」
「目が笑ってねーんだよ」
「……だって」
どうしたらい。このまま一緒だなんて絶対に無理だ。
イルは確実にこのまま邦道と同じように高等部の特進に進む。でも、幸隆は……幸隆は、違う。
「このままずっとなんて無理だもん……」
そんなの、自分が男で生まれてしまった時から知っている。
幸隆とずっとなんて絶対にありえないと言う事を、ずっと前からイルは悟っている。
「いくら女の子よりも可愛くても、僕は女の子じゃないからね……」
「イル……」
「幸隆がどこの高校に行こうとも僕には関係ないし、幸隆が大好きな野球を思い切りできる所に行ければ、僕はそれだけで嬉しい」
時々こっそり試合を見に行こう。
元気な姿を見て、声を掛けずに帰ろう。もし、幸隆に彼女ができて、スタンドにその彼女がいたら、ペコっと挨拶をして「幸隆をよろしくね」っと伝えよう。
「僕達も少しずつ大人になってるって事だよね……」
大人になるからこそ訪れる事。
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