218人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
幸隆は疲れた顔をしていて、イルは鞄の中に密かに隠しているキャラメルを幸隆に渡した。
「部活、疲れたんでしょ? はい、あげる」
「さんきゅ……」
幸隆はそのキャラメルを受け取ると、ひょいっと口に放り込み、コロコロと口の中で転がしていた。
「甘い……」
「そりゃキャラメルだもん。でも、疲れた後は甘い物欲しくなるでしょ?」
その為にイルは常に鞄の中に甘い物を忍ばせている。
自分も甘い物が好きだからと言うのもあるが、こんなに一人では食べない。それに、夏には塩分が入った飴も用意している。それは幸隆の為だけに用意した飴で、それをイルは一個も食べない。
イルはイルなりに幸隆の身体を密かに気遣っているのだった。
「ねぇ、なんで僕がそこにいるって分かったの?」
窓は閉まっていた。
それに、イルがいたのは二階だった。普通ならあそこからなんて見えないはず。なのに、幸隆はイルがそこにいる事に気が付いた。
「はぁ? そんなの分かるだろ」
「? 分かんないよ」
前にも思った同じ事。
小学校低学年の時に違う学校の高学年の男の子に絡まれた時、同じ事を思った。
何故、幸隆はそこにイルがいると分かるのだろうかと。
「お前の事、常に探してるから」
「え……?」
幸隆は歩きながらそうイルに言った。それは本当にサラッとしていて、一瞬我が耳を疑うほどだった。
「部活の時は野球しか頭にねーけど、それ以外はお前の事だけを考えてる」
幸隆はそう言うとピタッとその場で立ち止まり、イルを見詰める。
最初のコメントを投稿しよう!