218人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
それに釣られてイルも静かに立ち止まった。
辺りには人はいない。
夕暮れの橋の真ん中には、イルと幸隆だけがそこを渡っていたのだった。
「お前もそうだろ?」
「え……?」
「俺が、常に頭の中に存在してるだろ?」
そう言って、イルにゆっくりと近付いて来る幸隆。イルは橋の手摺に背中を付け、幸隆に前を塞がれる形になり前しか見えない。
そう。幸隆の顔だけしか見えない。
「俺の気持ち知ってんだろ?」
「幸隆の……気持ち……?」
イルは幸隆にそう言われ、戸惑いの顔を見せる。だって、幸隆の気持ちなんか分からない。
一番近くにいたはずなのに、今の幸隆の考えている事は今までにないくらい何も分からない。
「昔から、俺はお前しか見えてない。たぶん、これから先も……お前……イルしか見えない」
「!」
突然の出来事に、イルはフリーズしてしまう。
もしかして、今、自分は幸隆に告白されているのではないのだろうか。
いや、自意識過剰なんかじゃない。ちゃんと、言われている。
「でも幸隆はルイと……」
「ルイ? あぁ、周りはなんか言ってるみたいだな。そんなわけねーのに」
「そ…そうなの……?」
幸隆のその言葉に心の中でホッとしてしまうイル。幸隆がルイと付き合っていなかったと知り、急に心の底から湧き上がるように安堵が込み上げてきた。
最初のコメントを投稿しよう!