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良かった。幸隆はルイを選ばなかった。
そんな優越感が少しだけイルの心の中に咲いた。
「で、でも……な、なんで僕? 幸隆すっごくモテるのに……」
男のくせに女装趣味。可愛い物に囲まれるのが好きで、性格は自分でも面倒臭いと思うほどの天の邪鬼。
特に幸隆の前だと本心が言えない。そんな人間を、なんで幸隆は好きだと言えるのだろう……。
イルには理解不能だった。
「お前ってさ、他の人間の前ではあんなに自信満々なのに、なんで俺の前でだけそうなんだ?」
「え……?」
「素直に、俺もお前が好きだ。とか、言えば良いだけの話しだろ?」
「! ちょっ、ちょっと待ってよ! な、なんでもう僕の気持ちが幸隆を好きって断定されてるの? そ、そんなの分からな……」
「分かるよ。お前の事なら」
「ゆき……ンッ……」
不意打ちだった。
幸隆の顔が近付いて来た。そう思った時には唇に温かい物が押し当てられていて、動きが止まった。
「……はぁ。お前の唇……柔らかいな」
「! そ、それは毎日リップクリーム塗ってるからで……」
自分とは違う唇の硬さ。ザラつき。そして、キャラメルの匂い。
それが、離れた後もずっと鮮明に思い出せる。
まるで、まだ唇が塞がれているみたいに。
「初めてのキスはキャラメル味か……悪くないな」
そう言って、意地悪く笑う幸隆。その表情は珍しく嬉しそうだった。
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