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だってそうでしょ。幸隆には才能があり、昔から野球に関してはズバ抜けて群を抜いてるそんな人間が、上を目指さないわけにはいかない。
それに、毎日の日課は父親に買ってもらったグローブとバットの手入れで、それを欠かした事がない人間が、甲子園という大きな大会を夢見ないわけがない。
周りからの期待だってある。
「皆、強い所に行くって思ってるよ……」
ルイがこの間イルに言っていた。幸隆は絶対に海外で活躍できるほどの力があり、年代別の日本代表にだってなっている男なのだから、こんな日本に留まるのは勿体ないと。だから、一緒に留学しないかと誘ったと。
でも、幸隆は首を縦に振らなかった。その理由は誰も知らない。
「お前がいるだろ」
「え……?」
幸隆はそう言って、ユニホームを掴むイルの手をギュッと掴んだ。その瞬間、イルの心臓がドクンッと大きく鳴った。
「俺にとったらお前がいない場所なんて行く価値さえない」
「!」
「お前がいない所に行くとか、俺には考えらんないからな」
だから断った。そう、幸隆は迷いも無くイルに言った。
「そ、そんな理由で? ぼ、僕なんかいなくたって幸隆なら大丈夫でしょ?」
いつも平気な顔しているくせに、今、そんな事を言うなんて……ズルイ。
「それはクラスだけが違うだけだろ? 壁一つの距離くらいなら、まだ平気だ」
そう言って、幸隆は愛おしそうにイルの頬を優しく摩る。
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