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でも、イルは自分の気持ちを、今、伝えるのができなかった。それは、たぶん幸隆もその理由が分かっている。
分かっているからこそ、イルに告白の返答を聞いて来ない。
「またね……」
「あぁ、また明日な」
イルの気持ちには気付いている。
イルが幸隆を、幸隆がイルを想っているほど好きだと言う事は絶対に知っている。
けれど、言えずにいるのは、姉の存在があるからだど、幸隆も分かってくれている。
「……言わないと」
イルも幸隆が好きだと、ルイにも伝えないといけない。それを言わない限り、イルは幸隆と付き合う事はできない。
イルにとって、ルイも大事だから。
「ただいま……」
ガチャッとドアを開け、玄関を見る。すると、ルイのローファーだけが揃えられて真ん中にあった。
両親は出掛けているらしく、二人の靴は無い。
「おかえりなさい、イル様」
靴を脱いでいると、家政婦のみつこがイルを迎える。
「みつさん、ただいま」
家政婦のみつこは、イルが産まれる前からここで働いてくれている老女で、若い頃に子宮の手術をしたらしく、子供が産めない身体の女性だった。
だから、イルの両親を本当の子供の様に可愛がり、イルやルイの事を自身の孫のように可愛がってくれていた。
愛が溢れている女性。それが、みつこだとイルは思う。
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