218人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
こんな風に優しい心を持つ人間になりたい。何度もそう思う事がある。けれど、そう簡単にはみつこの様に温和にはなれない。
「今日は何か良い事でもありましたか?」
突然みつこがイルの顔を見てそう聞いて来た。その言葉に、イルは驚きと共に動揺してしまう。
「え! な、なんで?」
「ふふっ。みつには何でもお分かりですよ」
そう言ってみつこは嬉しそうに笑う。
やはり、勘が鋭いみつこには良い事も悪い事も隠せないようだ。
「……ちょっとね」
そうイルが頬を染めてみつこに言うと、みつこは嬉しそうに「それは良かったですね」と笑顔で言ってくれた。
「夕御飯は何が良いですか? ルイ様はお肉とのご要望がありましたが、イル様は何が食べたいですか?」
「僕? 僕もお肉で良いよ。サラダ付きでお願いします」
「はい。かしこまりました」
イルはみつこに笑顔でそう言うと、階段を上がり部屋へと向かう。
すると、ルイがイルの部屋の前で立っていた。イルが帰って来たのに気付き、部屋の外で待っていたようだ。
「た、ただいま……」
「おかえり。遅かったね」
ルイはイルの部屋のドアに寄り掛かり、中に入れないように塞ぐ。それを見て、イルは重い空気を感じ取った。
「う、うん。ちょっと寄り道して来たから……」
「幸隆とでしょ?」
「え……?」
ルイはそう言って今にも泣きそうな顔を浮かべる。それを見て、イルはルイが幸隆の気持ちに気付いている事に気付いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!