第4章 またねのキス

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 幸隆に返事をしないまま冬が来て春が来て、イル達は無事に中等部を卒業する事がでた。  イルは猛勉強の末に高等部の特進に入る事ができて、幸隆もイルを追い掛けて来るように、そのまま高等部のしかも、イルと同じ特進へと進んだ。  周りにはなんでそのまま高等部になんか進学したのかと言われていたようだが、幸隆は脇目も振らずにその進路以外を選ぶ事は決してしなかった。  甲子園に行ける男だったのに。  プロの選手になれるはずだったのに。  幸隆の周りの人間は、幸隆を見る度にその〝だったのに〟をぶつけた。  でも、当の本人はそんな言葉を気にする姿は全く無く、相変わらず何千回もバットを振り続け、努力を欠かさない。  そして、ルイは留学先の高校への引越しがようやく決まり、卒業式の三日後に日本を発つ事となった。 「ねぇ、ちょっといい?」  その前日。ルイが突然イルの部屋に来て、幸隆と共に見送って欲しいと言って来た。  あの泣いた日からルイとはまともに会話をしていなかったのに、突然そんな事を言われたイルは、戸惑いながらもコクッと頷くしかなかった。 「あー、あっという間だったなー卒業式まで……」  ルイは大きなキャリーケースを引きながら、空港に着くとそうぼやいた。 「次に日本来るのは正月とかか?」  幸隆はルイがここから離れる事が少しだけ嫌になっている事を察知したようで、そう話し掛けてくれていた。
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