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そんなイルの心情を察してか、幸隆はイルに話し掛ける事もなく、ただ、イルの背後を黙って付いて来てくれていた。
バスに乗っても隣には座らず斜め横の席に座り、イルと距離を取って座ってくれた。
これが答え。そう思えたイルは、バスの一番後ろの窓際で一人、幸隆にバレないように涙を流した。
「……やっぱ無理」
けれど、バス停を降りて直ぐに幸隆がそう言った。その言葉に、イルの足が止まる。
「無理って……?」
バス停を降りたのはイルと幸隆だけ。だから、周りには人は一人もいなくて、街灯だけが二人を照らした。
「ゆきち……っ!? ンンッ?」
その照らされた幸隆の顔に、イルはドキッと心音を高鳴らせる。そして、腰を抱かれた瞬間、唇を塞がれた。
「ンッ……なに……っ……ンンンッ……」
深いキス。
息をするのも許されないキス。
(息……できな……っ)
でも、それが嬉しいと思ってしまうのは、幸隆の想いが何も変わっていないとイルに伝えようとしているからで、それを拒む事などイルにはできなかった。
だって、嬉しい。
幸隆にキスされている事が、本当に、本当に本当に嬉しい。
(このまま……死んでもいいかも……)
キスをされながら、腕の中にいながら……もし、このまま死んだとしても悔いはない。
そう思えるほど、イルは嬉しかった。
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