第1章 可愛いの魔法

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 イルが唯一渡されたプレゼントでいつも持っているのは、このくまのぬいぐるみだけだった。  これは、イルとルイが産まれてすぐに祖父がくれた物で、同じ物が二つある。  でも、ルイはそのぬいぐるみをいつの間にか無くしてしまったようで、今はもう無いと言っていた。  だから余計、イルがぬいぐるみを大事にしているのが目立った。でも、それを手放す事はしなかった。  男に生まれたのに女の子が好きな物が好き。  服も色も雑貨も、全てが昔からそうだった。  でもそれは絶対に口にしてはいけない事。  そうだったはずなのに、今、自分はこんな格好をしている。  内心ではハラハラしている。ドキドキしている。けれど、それよりもウキウキが大きかった。  羨ましいと思っていた事ができているから。  けれど、今、それを一番見られたくは無かった人に見られてしまった。  家族にだけなら良かったのに、最悪な状況だ。 「へ……変じゃねーよ……」  けれど、幸隆はそんなイルの不安な気持ちを見透かしたようにそう言った。 「別に変じゃねーよ……可愛いじゃん」 「え……?」  そんな言葉を言われるとは思ってもいなかったイルは、驚きのあまり大きな目を見開いた。  そんなイルに、 幸隆がゆっくりと近付いて来る。 「ゆっ……幸隆?」 「お前、こういう服着ても全く変じゃないな……に、似合ってる……ぞ」 「!」  幸隆は照れながらそう言うと、赤くなった鼻を右手で触り、逃げるように去って行った。 「う…うそ……」  イルは幸隆のその言葉に夢じゃないかと自身の柔らかい頬を抓った。 「いひゃい……」  痛いし、冷たい。 「夢じゃ……ない」  それに、幸隆は嘘や冗談なんか言わない。
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