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そう、イルには思う。
なのに幸隆は決してイルを離そうとはしない。
誰かが来るかもしれないのに、見られているかもしれないのに、絶対にその手を緩めない。
今のイルの格好は普通の男の子の姿。側から見たら男同士で抱き合っていると直ぐに分かる。
なのに……。
「幸隆……もう離して……んぐっ」
でも、幸隆はイルの身体を更に締めるように強く抱いた。それは、息すらできないほどに。
「俺の幸せはお前と二人でずっといる事だ……。他の誰かなんていらない……イルだけいればいい……」
「ゆき…ちか……」
「いつになったらお前は素直になるんだ?」
ふわっと身体が離されて少しだけ距離ができた。
イルはそっと顔を上げて、切なそうに見詰めて来る幸隆の顔を見る。
「俺は諦めるつもりはないから。お前以外となんて……考えただけでも死ねる」
「! なっ、なに言って!」
「それくらい、俺はお前しか考えられない」
そう言って、幸隆は静かに歩き出した。
その背中は広く、けれど、抱き締めたくなるほど悲しそうだった。
「……き」
そんな後ろ姿に、イルは聞こえないほど小さな小さな声で幸隆に震える声で告げる。
でも、聞こえないでと心の中で強く願う。
「……僕だって同じだよ」
幸隆とは別の人間となんて死んだ方が良い。いや、死ねる。
これが全て答えなはずなのに、自分の性格がそうできない。
ルイみたいな大胆さや積極性があれば良いのにと思うけれど、それを全てルイに持っていかれた。
イルの中にあるのは、その反対の消極的な所と冷静さ。
ただ、それだけだ。
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