第5章 底のない愛

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 高校生活はとても充実していたと思う。  だって、毎日が忙しい。  高校に入って直ぐに父親が経営し始めた男の娘カフェでバイトを始めたイルは、自分の店のような気持ちで仕事に励んだ。  それに、邦道の誘いで二年の時に生徒会にも入った。  あまり役に立ってはいない気もしたが、邦道に「お前は場の空気を和やかにさえしてくれれば良い」とだけ言われ、揉め事が起きそうな時にその場に出陣し、間を取り持つ役を務めた。  そして、その数ヶ月後。二年の時の事。イルは幸隆と邦道以外の特別な存在と出会った。  名前は芳井(よしい)愛永(まなと)。邦道の婚約者候補の従兄弟で、途中から編入して生徒会にも入って来た美人な男の子。  色々あってようやく三年の秋頃に恋仲となった愛永と邦道は、こっちが照れてしまうほどラブラブな恋人同士になり、特に邦道は愛永が側にいないだけで落ち着かなくなるほどのご執心だった。  まさか、そんな邦道が見れる日が来るとは……。自分の幸せなんか考えた事すら無かった邦道にとって、愛永は本当に心から愛した人なんだなと、昔の邦道を知っているイルにはそう思え、愛永の存在がとてもありがたい存在だった。  昔の邦道は、見ているこっちが心配になるほど自暴自棄になっていた。  親の会社を継ぐ事だけを考え、その利益や得しか関わる人間に対して考えてはいなかった。
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