第5章 底のない愛

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 次男として生まれたはずなのに、親の期待や周りの期待は幼い頃から長男よりも優れた邦道に注がれていた。  その期待に応えるように邦道は外面だけが鍛えられ、だからこそ、イルや幸隆の前ではあまり笑わなくなり、疲れた顔だけを見せるようになった。  それが邦道の素の顔で、周りには決して見せない本当の顔。けれど、そんな邦道を側で見ていたイルと幸隆は、年々酷くなる邦道の行動をずっと心配になっていた。  特に恋愛面に対しては酷くて、親が決めた婚約者候補達との関わり方には目に余った。  その婚約者候補達は邦道よりも年上しかいなくて、何人もいたらしい。皆、邦道の婚約者になりたくて我先にと邦道に股を開き、直ぐに身体を繋げに来たと言う。  そんな女達に邦道はそうとう嫌気がさしていたようで、誰を抱いても何とも思わないのだとぼやいていた事があった。  その時の邦道はまだ中学三年生で、やっている事は大人でも、その時の邦道の心にはまだ純粋な心が存在していたようだった。  初めてを全てその婚約者候補達に奪われた邦道にとって、誰かを愛するという気持ちはその時から欠落してしまったのだとイルには思う。  けれど、そんな邦道に誰かを愛する気持ちを教えたのはただ一人の存在だった。  それが、愛永だった。  そうなる間に二人にはたくさんの試練があって、それを二人で乗り越えているのを側で見て来たイルにとっては、二人が付き合った事を知った時は誰よりも喜んだものだ。  愛永が現れなければ邦道はずっと自暴自棄から解放されず、今頃は婚約者候補の中から適当に選んで婚約していたかもしれない。  それを救ってくれた愛永に、イルは心から感謝していた。  たぶん、この気持ちは一生忘れない想いだと思う。
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