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だから、その言葉は幸隆が本当にそう思ってくれたからこその言葉だと、イルには分かった。
分かったからこそ嬉しかった。
幸隆はイルの事を、ちゃんとイルとだけ判断してくれている。
例えイルが女の子の格好をしていても、似合っているか似合っていないかで判断してくれる。
そんな幸隆が、イルの心を何度も救ってくれていた。
「ほら、ドア閉めるよ」
ルイは中に入って来ないイルにようやく気付き、そう言って顔を出した。そして、去って行く幸隆の後ろ姿を見付ける。
「あの後ろ姿って幸隆?」
「う、うん」
「えー、言ってよー。私も幸隆にこの服見せたかったー」
「ご、ごめん」
「もー、イルばっかりいっつも幸隆を独占しててずるい」
ルイはそう言うと頬をぷくっと膨らませ、シートベルトを締めた。
イルもその後すぐにシートベルトを締め、ルイに何度もごめんねっと告げた。けれど、ルイは直ぐにころっと表情を変え、笑みを浮かべる。
その心理が分からず、イルはルイの横顔をただ見詰めながら、ルイが話すのを待った。
「でもいっか。私、来年から幸隆がいる野球チームに入る事になったから」
「え……?」
その言葉にイルは驚く。
まさか、ルイが幸隆と同じ野球チームに入るなんて知らなかった。
そんな話し一度も耳にしていない。
「パパにお願いしたら良いって。ママも頷いてくれた」
「そ、そんな話し聞いてない……」
「だって、イルには関係ないじゃん。幸隆にもまだ言ってないし」
「でも……ぼ、僕だって……」
幸隆と同じ野球チームに入りたかった。
「イルは野球なんてできないでしょ? スポーツだってできないじゃん。運動音痴なんだから」
「……」
そうキッパリ言われ、黙るイル。
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