第6章 決意と阻害

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 幸隆は大事な試合の前や何か気合を入れなければならない前日になると髪を切る習性がある。  本人はそれを無自覚でしているようだが、一番側にいるイルには分かっていた。 「ねぇ。いつから全体練習に参加するの?」  イルはクッションを掴む手をぎゅっと握り、そう幸隆に聞いた。 「予定では二十七から一週間くらいだと聞いてる。だから、正月もあっちで過ごす事になるらしい」 「そっか……」  冬休みの間、幸隆はこれから拠点となる場所へと行ってしまう。そこでは、この間開かれた会議で声が掛かった子達が集まり、プロの練習メニューを熟し、春から一軍として試合に出れるか出れないかを選抜する一週間になると幸隆は言っていた。 「一軍で出れたらテレビに映るね」 「そうだな……。でも、そう簡単に一軍で出れるとは思わないけど」 「幸隆なら大丈夫だよ! 一位指名何チームから来たと思ってるの! 過去最高だよ!」 「ハハッ。なんだお前、あれ見たのか? 一緒に体育館にいたのに」 「! み、見ないわけないじゃん。ちゃ、ちゃんと録画してたから……帰ってから見たの」  何度も……。 「そっか……」  そう言って、幸隆は嬉しそうな顔を浮かべていた。そんな幸隆の顔を見て、イルは今だと思った。今言わなければと思った。 「ゆ、幸隆……」 「ん? なんだ?」 「く……クリスマス空いてる?」 「クリスマス?」 「うん……」 「空いてるに決まってる。つーか、今年も行くんだろ? 巨大ツリーを見に」 「うん!」  巨大ツリー。それは、街中にある公園の中央にクリスマスイベントとして特別に設置される物で、それを毎年二人で見に行くのが恒例行事になっていた。
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