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反論はできない。
ルイが言うようにイルは運動が全くできない。だから、前に幸隆と同じ野球チームに入りたいと言った時、両親は許す事はしなかった。
大きな怪我をするのが目に見えている。そう言われ、イルはそれを諦めた。
なのに……。
「幸隆に負けないように頑張らないと! イルは私達の応援頑張ってよね」
「……うん」
ルイは幸隆と一緒に野球が出来る事がとても嬉しいらしく、車の中、ボールを投げるフォームを繰り返す。
その横で、イルは窓ガラスに映る自分を黙って見詰め、そこに映るいつもの自分ではない姿に眉根を寄せる。
自分が本当の女の子ならこんな風に苦しくなる事は無かったのに……そう、思うのだ。
「幸隆驚くだろうなー。ね、イル」
「うん……そうだね……」
イルとルイ。二人は顔がそっくりな双子の姉弟。
違うのは性別だけ。
「絶対、喜んでくれるよね!」
「……うん」
あと、性格も。
「あー、早く春にならないかな。早く幸隆と野球がしたーい」
そう言って両足をバタバタと動かすルイ。そして、急にハッとなった顔をイルに向ける。
「あっ、そう言えば幸隆ってね、クラスにいる時は---」
そして、クラスにいる時の幸隆の話しを始めた。
イルだけがクラスが違うから、クラスにいる幸隆の事は知らない。
その時どんな話しで笑ったのか、盛り上がったのか。そんな話しを、あまり口数が多くはない幸隆からは聞いた事はないので、ルイが話すそれはイルにとって全てが初めて聞くことばかりだった。
だから、ルイはクラスにいる幸隆の話しをイルにする。
どれだけクラスの女子に人気なのか。そして、どれだけ自分と仲が良いか。自慢のように話して来る。
その話しに、両親はクスクスと笑いながらルイに言う。
「本当、幸隆君って優秀なのね。将来ルイのお婿さんに来てくれないかしら」
「そうだったらパパは嬉しいなー」
なんて言って、両親は二人の未来を描く。
「でも、本当にそうなるかもだよ! 幸隆、絶対ルイの事好きだもん!」
「っ……」
そう言い切ってしまうルイ。
そんなルイが羨ましい。
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