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毎年、クリスマス前に野球部では引退した三年生を交えて紅白戦が行われる。
これが正真正銘最後の三年生との試合になり、その試合は意外にも、毎年手に汗握る試合となっていた。
一年生、二年生、三年生が混合で行われるので力の差は無く、だからこそ、盛り上がる試合となるのだった。
勿論、応援席も設け、選手の保護者や生徒達も自由に見れる場所もあり、足を運ぶ人が多くいた。
それは、立ち見する人がたくさんいるくらいで、本格的な公式戦同様の観客数だった。
幸い、イルは朝から並んだ甲斐があり、幸隆のいるチーム側の直ぐ側に陣取る事が出来、一番近い場所で応援する権利を得た。
今年は絶対に早く起きて一番近い席を陣取ると決めていたイルは念願だった事が叶い、朝から幸せな気分になった。
「幸隆のチームは赤だっけ?」
そんなイルに、邦道がそう聞いて来た。
「うん。ほら、あそこにいるの幸隆だよ。くにくん、分かんないの?」
「分かるわけないだろ。あんなに人がいて……」
そう言われ、そうかな? とイルは思った。人が沢山いても幸隆なら探さなくても分かると思うからだ。
身長、肩幅。後ろ姿だけ見たとしても、イルには直ぐこれは幸隆だと見抜く自信はある。
「イルー。ごめんね、遅くなって」
「まなちゃん。大丈夫? 迷子にでもなった?」
「うん、少しだけ。まさか、こんなに人が沢山いるとは思ってもいなくて……トイレも東棟の方に行くしか無かったんだ。遅くなってごめんね」
「ううん。何かあったんじゃないかって思ってたから良かった。くにくんなんて、ずっとキョロキョロしてて落ち着かなかったんだから」
「え……? そ、そうなの?」
「……」
そうイルがニヤニヤしながら言うと、邦道も愛永も二人して赤面し、照れた顔を浮かべていた。
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