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幸隆は試合が始まる直前にイルを見付け、イルの名前を呼んで笑ってくれたのだ。
「幸隆……」
自分の視界にはイルしかいないとでも言っているように、幸隆は真っ直ぐにイルだけを見詰めてそう呼んでくれた。
それは、お前だけを見てる。そう言われている感覚に陥るほど、イルにとってとても嬉しい行動だった。
けれど、そんな幸隆の行動を面白く思わない人間が二人。そう、ルイと大樹だ。二人は幸隆のその行動に、急な不機嫌さを醸し出し始めた。
でも、もうそんなの気にしない。
今は試合に集中したい。なのに、ルイは幸隆の打席になると大声で応援し始め、その自分の容姿をアピールする行動を取り始めた。
それを周りの観客にいる人間は無意識にルイを意識し始め、ルイが幸隆の何なのかを詮索する声が聞こえて来た。
特にそれを気にしているのは幸隆のファンクラブの子達で、今まで見た事が無かったルイを見て、もしかして……と言う声が聞こえて来るのが分かった。
それを大樹は聞いたのか、あからさまにわざとな言葉を周りに聞こえるように発する。
「そんなに恋人の応援に全力になってたら、声が枯れちゃいますよー」
「! ちょっ、ちょっと大樹? 何言って……」
イルはそんな大樹の発言に反応して、咄嗟に大樹の太腿のジーンズを掴んだ。
「えー? 違うんですか? 俺はルイからあいつと付き合う予定だって聞いてるんで、そんなの付き合ってるのと一緒だって思うから、別に良いじゃんって感じなんすけど」
「で、でも付き合ってるわけじゃ……」
誤解を招くような発言はどう広まってしまうか分からない。事実、後ろではもうルイが幸隆の恋人なんだと納得している子達もいる。
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