第7章 新たな波乱

6/19
前へ
/161ページ
次へ
 幸隆は試合が始まる直前にイルを見付け、イルの名前を呼んで笑ってくれたのだ。 「幸隆……」  自分の視界にはイルしかいないとでも言っているように、幸隆は真っ直ぐにイルだけを見詰めてそう呼んでくれた。  それは、お前だけを見てる。そう言われている感覚に陥るほど、イルにとってとても嬉しい行動だった。  けれど、そんな幸隆の行動を面白く思わない人間が二人。そう、ルイと大樹だ。二人は幸隆のその行動に、急な不機嫌さを醸し出し始めた。  でも、もうそんなの気にしない。  今は試合に集中したい。なのに、ルイは幸隆の打席になると大声で応援し始め、その自分の容姿をアピールする行動を取り始めた。  それを周りの観客にいる人間は無意識にルイを意識し始め、ルイが幸隆の何なのかを詮索する声が聞こえて来た。  特にそれを気にしているのは幸隆のファンクラブの子達で、今まで見た事が無かったルイを見て、もしかして……と言う声が聞こえて来るのが分かった。  それを大樹は聞いたのか、あからさまにわざとな言葉を周りに聞こえるように発する。 「そんなに恋人の応援に全力になってたら、声が枯れちゃいますよー」 「! ちょっ、ちょっと大樹? 何言って……」  イルはそんな大樹の発言に反応して、咄嗟に大樹の太腿のジーンズを掴んだ。 「えー? 違うんですか? 俺はルイからあいつと付き合う予定だって聞いてるんで、そんなの付き合ってるのと一緒だって思うから、別に良いじゃんって感じなんすけど」 「で、でも付き合ってるわけじゃ……」  誤解を招くような発言はどう広まってしまうか分からない。事実、後ろではもうルイが幸隆の恋人なんだと納得している子達もいる。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加