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「……君、研究者志望で合っているかい?」
女の研究者は珍しいのだろう、長い髭を蓄えた老人は訝しげな表情をして私を見つめた。
私は小さな研究所で、その老人と向かい合い座っていた。
TOKYO第89地区。第32都市からは大きく離れてしまったが、今あそこは警備型アンドロイドに警護してもらっており、また衛星からリアルタイムで向こうの状況は分かるので、特に問題は無い。
老人はしきりに髭を撫でながら、私の顔を見つめている。
「アネモネと言います。種別はアンドロイドです。よろしくお願いします」
「アネモネって……まさか、二年前にマージ博士の研究所から失踪したって噂の、あの高性能アンドロイドじゃないよね?」
私は特に返事をしなかった。彼はまるで問うような言い方をしたが、内心確信を持って話していることを察知したからだ。
彼はやがて面白そうにニヤリと笑い、髭を撫でる手を止めた。
「まさかこの国外れのオンボロ研究所に、こんなかわいいアンドロイドさんがアルバイトを申し込んでくれるなんてね。驚いた。僕が行っている研究、何か分かっていて来てるんだよね?」
私は即座に答える。
「人の心を持つアンドロイド――アンドロイドに人の心を移植する研究ですね」
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